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最高裁判所第三小法廷 平成4年(行ツ)112号 判決

上告人

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

由良数馬

右指定代理人

黒田嘉次郎

村田茂

河野寿寛

大西正

上告補助参加人

総評全国一般大阪地連文祥堂労働組合大阪支部

右代表者支部長

尾崎勲

右訴訟代理人弁護士

村田喬

被上告人

株式会社文祥堂

右代表者代表取締役

佐藤克夫

右当事者間の大阪高等裁判所平成二年(行コ)第六二号行政処分取消請求事件について、同裁判所が平成四年三月五日言い渡した判決に対し、上告補助参加人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加藤敏夫、同黒田嘉次郎、同中谷英明、同横溝幸徳の上告理由第一について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二及び上告補助参加代理人村田喬の上告理由について

使用者の提案に係る企業再建計画の実施の受入れというような包括的な事柄が交渉事項となっている団体交渉において労使間に合意が成立したというためには、特段の事情のない限り、当該交渉事項の全体について確定的な意思の合致があったことが必要であって、仮に当事者の一方が団体交渉の過程で交渉事項の一部について相手方の主張に合致するような見解の表明を行ったとしても、右見解の表明が、全体的な合意の成立を条件とする暫定的ないし仮定的な譲歩にかかわるものであるときは、これをもって、個別的な事項について労使間の合意の成立があったとすることはできないものというのが相当である。

本件についてこれをみると、原審の認定するところによれば、(一) 被上告人は、昭和五〇年以降経営状態が極端に悪化したことから、昭和六〇年五月、企業規模の縮小と合理化を内容とする再建計画を発表し、右再建計画に基づいて、大阪支店関係では、京都、神戸出張所の廃止、大阪営業所の支店への統合、大阪支店等の従業員の大幅削減等の改革案(以下「被上告人提案」という。)を補助参加人の上部組合に提示し、同年八月九日から昭和六一年五月二〇日までの間に合計一九回にわたり、補助参加人との間で、被上告人提案の実施の受入れを交渉事項とする団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)をした、(二) 昭和六〇年中の本件団体交渉において、補助参加人は、被上告人提案の具体的内容についての検討、討議に入る前提として、被上告人に対し、〈1〉 会社財産(本社、三田工場)を維持し、大阪支店の存続と同支店従業員の同支店における雇用を保障する、〈2〉 大阪支店の閉鎖、縮小とこれに伴う同支店従業員の労働条件等の変更は補助参加人の上部組合との事前協議事項とする、等の確約を求めた、(三)これに対して、被上告人は、補助参加人の右確約の求めに応ぜず、〈1〉 会社財産(本社、三田工場)の維持と大阪支店の存続は被上告人提案の当然の前提であるが、再建計画の成否に懸かっているため現時点で確約はできない、〈2〉 被上告人提案が実施できるなら、七年間は大阪支店を存続させ、三年間は同支店従業員の雇用を保障することとし、また、大阪地区に住居を有する従業員は大阪地区で勤務させるのを基本とする、〈3〉 大阪支店の閉鎖、縮小とこれに伴う同支店従業員の労働条件等の変更を事前協議事項とすることはできないが、労使が一致することが望ましいので、最大限の努力をする、等の見解を表明した、(四) しかし、本件団体交渉において、両当事者間に被上告人提案についての成案は得られず、このため被上告人は、昭和六一年五月二〇日、本件団体交渉の打切りを通告した、というのである。

右一連の経過の中で考えると、本件団体交渉において表明された被上告人の前記(三)の見解中には補助参加人の求めた内容に合致する部分もあるが、右見解の表明は被上告人提案についての合意の成立を条件とする暫定的ないし仮定的な譲歩にかかわるものであることが明らかであって、右見解の表明を目して本件団体交渉において被上告人と補助参加人との間に本件救済命令1項(1)、(2)の合意が成立したと解することは到底できない。右にいう合意が被上告人の努力義務を宣明したものにすぎないことを理由として、被上告人がこれを対象とする労働協約の締結を拒否しても不当労働行為に該当しないとする原判決引用に係る第一審判決の説示も、これと同旨をいうに帰するものというべきである。そうすると、所論の点に関する原審の判断は是認するに足り、原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張も、その実質は原判決の法令違背を主張するものにすぎない。論旨はすべて採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)

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